杏子とOLの出席簿

20代女子ふたりの背伸びをしない交換日記。

過ごした時間にキスをする【杏子 起床】

by 芦田 杏子


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目がさめると、視界にふたつのマグカップが飛び込んでくる。昨晩彼がここにいたのは幻だったような気がするけれど、そのマグカップに残る微かな茶葉が、彼が来た確かな証だ。


最近彼は、ワタシの部屋を訪ねてくる。もうごくごく自然に、言わずともワタシのダブルベッドに座り、ワタシの紅茶セレクションから茶葉を選び、紅茶を淹れてしばし語らう。


ワタシたちは、お互いに指一本触れない。


そして11時を過ぎれば、彼は自発的に帰る。ワタシはティーポットを洗うことを翌朝に回して布団に倒れ込む。心地よい疲労感は、ワタシをすぐに睡眠へといざなう。


なんてプラトニックなんだ。


朝、ワタシは布団の中で現実と夢の狭間を漂いながら、クッションに残る彼の残り香を嗅いだ。古着の匂いなのかパイプの匂いなのかわからないけれど、そのかおりもまた、彼がここにいた証拠だ。


これはこれで、とても心地よい関係で、ずっと続けばいいと思う。


でもワタシはひとつ、決心をした。


この決心が、この心地よい関係を壊してしまうかもしれないと思うと、気持ちは揺らぐ。


けれども、いつかは、いつかは何かしら結論を出さないといけないと、ずっと思っていた。


なぜなら、ワタシたちには学校の卒業というタイムリミットがあるのだ。


関係を壊すかもしれないけれど、万が一、より良い関係になれるのだとしたら、残された時間が少しでも多いほうがいい。


その2つの思いのせめぎ合いで、絶妙な機を長らく見計らっていた。


今が適した時なのかどうかすらも、もう自分ではわからなくなっているのだが。


再びクッションに顔をうずめながら、ワタシは彼が愛してくれたあの日の記憶に浸り、ちょっとだけ泣いた。