曖昧な関係は鏡に映る【杏子 冬休み最終日】
by 杏子
彼と食事に行った。
よくもまぁ。そんな声が聞こえてくる。
ワタシもそう思う。
お互い探り合いの夜だった。
お互いいつものように接しているようでいて、どこか緊張感が抜けない。
でもワタシは知っている、彼がワタシを嫌っていないと。
申し訳ないが試してしまった。
ミラー効果。
左手で頬杖をついて彼の話を聞いていたら、ふと、彼が右手で頬杖をついていきながら話しているのに気づいた。
ミラーリングだ。
そう気づいて、さりげなく頬杖を両手に変えて、重心を真ん中に持ってきた。
ほどなくして、彼は頬杖をつく手を変えて、重心が真ん中になった。
その後もコップに手をやってみたりして話を聞きながら経過を観察したが、わたしが思わずミラーリングしてしまっているシーンもあった。
なんだろうこの関係。
彼は気づいただろうか、ワタシが話を聞きながら実験していたことに。
当たり前のように一緒に帰ってきたけれど、右に行くとも左に行くとも言わず、駅をショートカットしたり、裏道を通ったり、自然に同じ道を選んでいたのがニクい。
そして別れ際彼はいつものように「ありがとう」と言った。
いつも思ってたけど、あのタイミングの「ありがとう」なかなか独特である。
会ったのはほとんど2ヶ月ぶりだ。この2ヶ月の間ワタシたちはネット上で冷戦を続けた。
多分お互い意地張ってたんだと思う。
まだどちらも意地は抜けないのだけれど、やはり顔を合わせると、ちょっと肩の力が抜けた。
食事の間、ふとした瞬間に、どきどきしてしまう自分がいた。
ワタシが恥ずかしがりつつ口の脇にケチャップをつけながらバーガーをかじったのを、笑って見つめる彼がいた。
やっぱりサラダはシェアをした。
それでもワタシたちは付き合っていない。
やはりこの人を好きだと確認してしまった一方で、この人好きで居続けられるか、その意思が揺らぎかねない出来事もあった。
その夜別れたあと、ずっとその出来事について考えている。