杏子とOLの出席簿

20代女子ふたりの背伸びをしない交換日記。

おしゃれな足下に思う【杏子 出席】

by あしきょう

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DJあおいは、平熱で恋をしろ、と言った。

熱々の38度ではなく、平熱36度で、と。

 

言うなれば、今の彼とワタシは

平熱の恋をしているのかもしれない。

 

ワタシは今不思議と落ち着いた気分で

彼もそう感じていてくれたらいいなと思う。

 

おしゃれが大好きな彼に

この靴どう思う?とラインをした。

 

すると彼は言った、

前に付き合った子がこれを履いていた、と。

 

彼はこれまで過去の人の話をしなかったから

通知に映った文言にワタシは面喰らった。

 

でも彼が心の結び目を解いてくれた気がして

ワタシは何だか嬉しくなった。

 

過去の人も、おしゃれさんだったんだな。

それは知る人ぞ知る老舗メーカーの靴。

 

もっと知りたい気もしたけれど

彼のペースで少しずつ教えてほしい気もして。

 

ワタシは届いた文言に対して

「おしゃれさんやね~」とだけ返した。

 

「じゃあ買うのはやめとこっかな」

とも書き添えたけれど。

 

それで途絶えるかと思ったら

彼はもう一言だけ送ってきた。

 

「どっちにせよ

 この色は難しいからやめとき」

 

この色を履いていたという彼女は

どんな人だったんだろう。

 

きっときっと彼と同じくらい

不思議な人なんだろうと思う。

 

彼がその色を履いていた彼女を

どう思っていたかは知らないけれど、

その間合いや言葉遣いから
前の人をぞんざいにしない人柄の良さを思ったし、

自己開示を通じて

ワタシを大切に扱ってくれた気がして。

 

何か、彼の歴史ごと愛おしくなる感覚を

ワタシは抱いたのだった。

 

いつか彼に

ワタシの過去を話す日は来るんだろうか。

 

彼なら受けとめてくれるだろうと思う反面、

話すことは、ちょっとだけ、怖い気もする。