スーツをまとったシンデレラ【杏子 出席】
by 芦田杏子
なんてタイトルをつけてくれるんでしょう
恐縮のきわみです
うれしさのあまり
数日ほどほくそ笑んでおります
美しくありたい、という思いは
心のどこかに
いつも掲げているのですよ
ただね、ワタシの場合
己の美意識の方向性の問題で
それはだいたい
人から「かっこいい」と言われるのです
ずっと、かっこいいと言われることに
喜びを見出していたのですが
殿に会ってからというもの
ワタシはすっかり変わっちまいました
気づいたんですよね
本当はワタシだって
かわいいって言われたいし
きれいって言われたい
でもなんだか
自分がそう言われることは
誰かを敵に回す気がして怖くて
イケメン女子枠ってある意味楽なんです
非モテキャラほど
落ちぶれた気持ちにはならないし
というか、簡単ですよ
ちょっとパンツスーツを着て
ちょっと甘い言葉を吐いて
自分がお姫様だったらされたいことを
相手にしてあげるだけ
女の子が求めることが何かわかるから
漫画の中の王子様みたいなことを
普通の男性よりよほど簡単にできるんです
そして何より、誰も敵に回しません
男の子と仲良くしても
あの子は男子枠だから大丈夫といって
誰にも恨まれないのです
女の子同士のいざこざは
小学生の頃から結構巻き込まれたくちで
だからもう、嫌だったんですよね
それで自分の中の
お姫様メンタルを抑制することで
身を守ろうとしたのでしょう
結果見出したイケメン女子枠は
とても居心地もよかったし
女子からも男子からも愛されたけれど
ワタシは本当の本当に本当は
自分だけの王子様が
ほしくてたまらなかったんだと思います
殿に会ったことで
ワタシが柄になくかわいくしようとも
あの人なら
気持ち悪がらずに受け入れてくれる
という安心感が生まれ
なんなら
もっとかわいくなるような魔法を
あの人はワタシに
さらりとかけていくものだから
それは褒め言葉のこともあれば
あるいは
こういうものを身につけたらいい
なんてアドバイスのこともあるけれど
ワタシは今さらになって
長年抑えていた自分の中の乙女心の
爆発を止められないのであります
鏡に映る自分に向かって
恥じらいから「誰だよ」と言いつつ
その姿は自分でもわかるほど
日に日に変化していって
ああ、あなたはいったい
なんという魔法を
かけていってくれたんですか
昔読んだ携帯小説の中でも
ひとつ忘れられないフレーズがあります
「世界を敵に回しても」
あなたと共に生きたいというフレーズ
かつては敵を作ることを極端に恐れ
悪く言えば八方美人
よく言えば誰に対してもイケメン
というスタイルを貫いていたワタシは今
世界を敵に回すほど破滅的ではなくとも
千人の味方よりも
ただあなたひとりがほしいと
思うようになりました