冷たいキスで温めて【OL 雪で休校】
byちやほやされたいOL
踊るように雪が舞っていた
道路を覆った白い結晶が
アスファルトに勝てなくて溶けていく
頬を切るような冷たさに世界が怯えて
スローモーションを繰り返している
どうしようもない倦怠感と
すべて清算したくなる衝動
1年ぶりにメッセージのやり取りをした
今、恋慕する存在があること
その方とよい関係であること
そうかと頷くように既読がついた後
「お幸せに」と通知がおりてきた
最近の事情を知ってほしいとか
見せびらかしたいわけではない
どちらかというと私は別れを用意しておくタイプの人間なので
そういったことを披露するのは避けたい性分なのだが
自分の中でけじめをつけたかった
どうでもいい人ではなかったから
丁寧な儀式で終わりにしたかったのだ
一昨年の12月に終わったくだらない恋は私の脅威の引きずりにより生殺し状態で保存されていた。
絶望にも希望にも似た静かな雪
孤独とも愛とも違う柔らかな魔法
知りたいことを知りたいとも言えない臆病者の憧れだった
どうでもいいフリをして、でも知りたくて堪らなかったこと
「ずっと聞けなかったんだけど、本当の名前はなんというのですか?」
別れてから1年以上たってから教えてもらった彼(通称:本命)の名前は、私が想像していたものとは少し違っていた
今思えば、名前さえ聞けなかった恋がうまくいくわけがないのだと少し笑った。
「僕は君を幸せにできなかった」とメッセージが届く
たしかにね、と思ったけどこれでは当時の私が浮かばれない
「私はあなたといた時間幸せでしたよ」と返した。
事実、私は哀しくなるほどに彼が好きだった。また通知が光る。
「過去形になっていて安心したよ」
ずっと冬は嫌いだった。大切なものを奪うから素直になるといなくなるから
過去形にしたのは無意識だったので、私は満足のいく決別ができたということなのだろう。
やっと普通に話すことができそうだからと、食事に誘われたが
断った。もう必要ない
つけっ放しにしていた加湿器の影響で窓枠は濡れている
曇り硝子を開けると寂しい国の絵画のような景色が広がった
見渡せる範囲に人影はない
みんなどこかに行ってしまったかのように
これからどこへでも行けると励ますように
紅茶を淹れてチョコレートに手を伸ばす
彼のLINEは非表示にして
新しく開いたページにメッセージを送る
「日曜日休みなので時間があれば会いたいです」
冬は嫌いだった。
でも変わるかもしれない。
あの時には気付かなかった雪の温かさを知ったから。