失うこと、捨てること【OL 登校前】
by ちやほやされたいOL
もう怖いんだ
と語る肩は震えていた
私は頷きもせず
沈黙を挟みながら紡がれる想いを聞いていた
そうするほかなかった
安い励ましの言葉をかけるのは無責任に思えたからだ
かつて愛したものを
怖いと思ってしまうのはどんな感覚か
それはある日突然ではなくて
長い年月をかけて少しずつ歯車がズレるような緻密な狂いなのだろう
私はそれを見たことがないが
想像を遥かに超える苦しみと決断があったはずだ
言葉にすることも何度も躊躇っただろう
なんとか気の利いた言葉をかけようともしたが
これといった助言も手をさしのべることもできないまま
ただ、吐き出される内面の熱を浴びて眠りについた
血を吐くような告白であった
返り血を浴びた感覚になったから
翌朝
首から肩のけだるさを背負って体を起こすと、部屋は私1人になっておりなにも知らない朝日が窓から入り込んでいる。
しかし丁寧に畳まれた肌掛けだけはその人が先ほどまでここにいたと主張していた。
どんな感情で1人身を起こし部屋を出たのだろう。
私はなにかの役に立てただろうか
慣れ親しんだ環境や関係を捨てるのは
ちっぽけなその人1人では抱えきれないと想像がつく
世界からはみ出して、誰もいなくなってしまう感覚に陥るだろう
その人は耐えられるだろうか
仲間はいても味方はいない
なにもかも、1人で耐えねばならない
耐えようという捨て身の決意なら
私は味方になりたいと思った
大きな痛みを負うことは避けられないだろう
その人の決断が正しいものなのか、世界中の誰も教えてくれない
ならば私だけは信じよう
その人が傷付かないようにではなく
傷付いて帰ってきた時にただ抱きしめられるように