あなたの声が聞こえたら【杏子 補講】
by 杏子
ねえ知ってるよ
あなたが会う人会う人に
ワタシの話をしていること
だけどワタシの名前を出す前に
一瞬ためらうこと
ねえ知ってるよ
ワタシが好きだと言った映画を
すぐに観ていたこと
ワタシの好きな食べ物を
よく覚えてくれていること
ねえ知ってるよ
あなたのカメラロールには
階段でほほえむワタシがいること
ワタシが撮ってあげた写真も
しっかり保存してあること
きっとあなたは
ワタシと交わした一言一言を
忘れずに反芻している
だからだよね
もう半年の前の約束なのに
忘れずに果たしてくれたのは
あなたはあのとき
いつか僕の得意料理で
もてなしますよと言った
きっと
その料理をワタシに振る舞うために
普段は好きじゃないと言う
大勢での食事会を自ら催して
何人も友達を呼んで
たしかにふたりで食べるには
豪華すぎるごちそうだったけれど
そこまで照れ隠ししなくたって
大丈夫なのに
そんな不器用な彼が愛おしくて
ワタシはずっとずっと待っている
あなたがいつか面と向かって
ワタシの名前を呼ぶ日を